[2014/12/09]

【第1回】サウジアラビアの女中さん事情

 多くのサウジ人家庭には女中さんがいる。彼女達はインドネシアやスリランカといった貧しい国々から来ているわけだが、全員住み込みで契約期間は2年間。その間信じられない事だが、休みなんて一日たりともない!というのがサウジでは至って一般的。

 一ヶ月の給料は、出身国によって随分と違うが、アジア系の中で一番高いフィリピンの女中さんで約3~4万円。一番安いスリランカの女中さんになると2万円ちょい。アフリカ系で一番多く取るのは多分モロッコの女中さん達。彼女達のお給料は4~5万円ほど。
 私がサウジに来た20年前はもっともっと安く、スリランカの女中さんの給料は驚きの1万円ちょっとだった。
 日本の感覚ではベラボーに安いこのお値段で、朝から晩まで何でもやってくれるのだから、雇わにゃ損そんとばかり、必要のなさそうな家庭にまでいたりする。
 我が家でも女中さんをお願いしたことはあります。が、日本人が思い描くほど「住み込みの女中さん」というのは、そんなにいいものではない。

 まずは経済的に。1ヶ月のお給料が2~3万円と言うと安く思えるが、実は女中さん一人をサウジにまで連れてくるには、斡旋業者に手付金をまず払わねばならない。その料金30万円から、高い所では50万円以上もしてしまう。
 その手付き金の中には、女中さん達の片道の航空運賃や現地での研修費などが含まれている。研修というのは、アイロンのかけ方や食器の洗い方など、当たり前であるが、サウジに行ってからさせられるであろう事を教わるわけだ。

 その研修期間も国によってまたまた随分変わってくる。2、3日の国もあれば、スリランカなどは3ヶ月もあるらしい。その3ヶ月間も彼女達にお給料も支払われ、それは全てサウジから来る手付金でまかなわれているわけだ。しかし研修に3ヶ月もいるかあ? と思うのは私だけではないはず。各家庭によってそういったやり方って結構違うから、結局一から教えないといけなくなるし、時間のムダ、ムダ。

 さて女中さんが実際にサウジに着いたら、まずは健康診断を受けてもらう。これに約1万円なり。その後イカーマと呼ばれる外国人用の滞在ビザを申請しなければならない。こちらの料金、一年分約15000円なり。
 そして彼女達の洋服代、病院にかかった時の治療費、そして帰りの航空運賃。それから忘れてはいけないのが食費。住み込みである以上ご飯をださないわけにはいかない。家族と同じ物を食べるわけだから、"食費"といっても特別に気にならないはず、ではある。しかし我が家に来た女中さんの1人が、大変な大食漢だった事があった。
 イヤーっ、驚きの食欲!マー食べる食べる。来たばかりの時は棒のように痩せていた彼女が、あっという間に私を追い越してしまった。あの時は、はっきり言って "食費"、気になってしょうがなかったものです、ハイハイ。

 さて、諸々の費用を足してそれを2年分(24ヶ月)で割ると、1ヶ月大体7~8万円位になるのではないだろうか。最近はサウジもインフレで物価が随分と高くなってきたから、月に10万円と見てもいいかもしれない。
「ナーンだ、まだまだ安いじゃないの」と思われる人もいるかもしれない。しかし一家の主の給料が15万円くらいであったら、その3分の1以上が女中の為に使われてしまうのだから、これはもう大変だ。
 サウジ人は全員超お金持ちと思われているかもしれないが、そんな事はない。仕事がないので、仕方なく12、3万円くらいの給料でも働く人だって結構いる。厳しい現状がサウジアラビアにもやはりあるのだ。

 ゆえに女中さんを申請する為には、一定のお給料をもらっていないとダメ。「欲しい!必要!」といくら叫んでみても、給料の少ない人は受け付けてもらえない。反対に給料が高い人は女中さんを1人といわず、2人頼める人もいるし、3人頼める人だっている。給料の額次第で何人も頼めるそうだ。
 うちの主人の弟の家にいる女中さんが以前働いていた家には、女中がなんと9人もいたそうだ!一体そこのご主人、どんなお給料をとっているのだろうか。多分王族関係者だろう、普通のサラリーマンではあり得ないと思うんだけど、そんな事。

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 さて、女中さんを申し込む際に、どんな女中がいいのか、一応希望を出す事はできる。多額の手付金を払っているのだからそれぐらいは許されるだろう。
 例えば、湾岸諸国で働いた経験のある人がいいのか、結婚している人がいいのか、子供がいる人がいいのか、年齢はどれ位がいいか、などなど。
 しかし、これはあくまでもはかない希望であって、どこまでその希望が通るかはもう運まかせ。

 我が家もスリランカからの女中さんを頼んだ時に、湾岸諸国で働いたことのないウブで純情で愛らしい人を頼んだ。しかし、やって来たのは何と、12年間もサウジアラビアで働いた経験を持つ超スーパーメイド。ウブで純情で愛らしい?笑っちゃいます。
 そこで「どうしてもこの人じゃ嫌だ、変えてくれ、変えてくれ!」といえば着いてから3ヶ月以内であれば「変えて」くれる。それもただで。素晴らしいシステム!さすが手付金約30万円也を払った甲斐があるっていうもの。
 しかし、そう、またしかしである。 代わりの女中さんがいつ来るのか、これがまたもや運任せ。何しろ最初の女中さんが来るのにだって早くて6ヶ月、遅ければ1年位かかってしまう事だって"普通"にあるのだから。

 知り合いのサウジ女性は妊娠をしたため、急いで女中さんを手配したそうだ。妊娠中は疲れるし、動いたら流産してしまう人だっているのだから。「妊娠した、だから女中欲しい」この気持ち分かります、ホント。ただ私の場合7回もの妊娠期間中、一度も女中を持った事がない、はっきり言って辛かったわあ。
 さて、その知り合いのサウジ女性の家に女中が来たのは、妊娠後期。もうすぐ赤ちゃんが産まれるぞお、といった時期だったらしい。待つ事約9ヶ月......。

 サウジアラビアというのは、何事においてもものすごく時間がかかり、ものすごい忍耐力が必要とされる。例えば、サウジの空港に着いて、機内に預けた荷物がでてくるのを待つ時、「もしかして今日はここで一泊しなければならないのだろうか」と思ってしまうほど。日本の空港でこんなに待たされたら、絶対クレームがでるだろう。しかし悲しいかな、ここはサウジアラビア、誰も何の文句も言わずただひたすらジーッと待たねばならないのだ、ハアーっ。